大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和26年(ナ)10号 判決

原告 小坂義衞

被告 青森県選挙管理委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二十六年六月九日附をもつてした裁決、即ち昭和二十六年四月二十三日執行の青森県三戸郡上郷村長選挙における原告の当選の効力に関し、同村選挙管理委員会が斎藤利吉からした異議申立を棄却した決定を取消し原告の当選を無効とする旨の裁決はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告(旧姓を原田という)は昭和二十六年四月二十三日執行された青森県三戸郡上郷村長選挙において斎藤利吉と共に候補者となつたものであるが、選挙の翌二十四日開票の結果、投票総数二千三百一票のうち有効投票二千二百四十九票無効投票五十二票で、原告の有効投票千百二十九票斎藤利吉の有効投票千百二十票と公表され、原告が当選人と決定されたのである。しかるに斎藤利吉から同村選挙管理委員会に対し右当選の効力に関する異議の申立をし右申立は棄却されたところ同人はこれを不服として更に被告に訴願した結果、被告は昭和二十六年六月九日右訴願申立を理由ありとして右決定を取消し原告の当選を無効とする旨の裁決をし、右裁決書は当時原告に送達された。

二、しかし被告のした右裁決は左の理由により違法である。

(一)  前示無効とされた五十二票中に別紙目録第一乃至第十九記載のような投票があり、被告が右裁決において、右のうち第一乃至第十四記載の投票十四票(甲第一乃至第十四号証)を斎藤利吉の有効得票と、また同上目録第十五乃至第十八記載の投票四票(甲第十五乃至第十八号証)を原告の有効得票、同上目録第十九記載の投票(甲第十九号証)を無効と判定したのであるが、右のうち被告が原告の有効投票と認めた右目録記載第十五乃至第十八の四票(甲第十五乃至第十八号証)及び斎藤利吉の有効投票と認めた同上記載第十二の一票(甲第十二号証)がそれぞれ原告又は被告に対する有効投票であることは原告も争わない。

(二)  しかし、別紙目録第一乃至第十一、第十三、第十四の投票(甲第一乃至第十一号証、第十三号証、第十四号証)合計十三票が斎藤利吉の有効投票であることは争う。即ち右のうち別紙目録第一乃至第六、第九、第十一、第十三、第十四の投票はいずれもその記載からして斎藤利吉に投票されたものと認め難い。しかも右第二、第四、第五の三票は本件村長選挙と同時に執行された上郷村議会議員選挙における村議会議員候補者佐藤勇、佐藤章治に対する投票と認められるものである。

又別紙目録第七、第八、第十の合計三票はいずれも他事を記載した無効投票である。

(三)  なお別紙目録第十九の投票(甲第十九号証)は、原告に対する有効投票と認むべきものである。

以上によると、前示無効投票とされた五十二票中には原告の有効投票と認むべきもの五票、斎藤利吉の有効投票と認むべきもの一票があるのであるから、これをそれぞれ前示開票の結果として公表された原告の有効投票数千百二十九票、斎藤利吉の有効投票数千百二十票に加えると原告の得票数は千百三十四票、斎藤利吉の得票数は千百二十一票となり、結局原告の得票数は斎藤利吉の得票数より十三票多くなるのである。

三、よつて原告の当選は有効であるからその無効なことを前提とした前示裁決は違法として取消を免れないものであると述べた。(証拠省略)

被告訴訟代理人は、請求棄却の判決を求め、答弁として、

原告主張の一の事実は争わない。

同二の事実中

(一)の事実は争わない。

(二)の事実中、原告主張の別紙目録記載第一乃至第六、第九、第十一、第十三、第十四の十票については、それぞれ誤字脱字或は不正確な字画があり記載やゝ不明確であるけれども、青森地方においては「斎藤」を通常「さいど」又は「さいと」と濁音又は短音をもつて呼ぶ風習があり且本件選挙における候補者は原告及び斎藤利吉の二名のみであることを考えると、右投票はいずれもその記載からして斎藤利吉に対して投票したものと確認し得べきもので同人の有効投票というべきである。又同じく原告主張の同第七、第八、第十の三票はいずれも訂正又は正確を期するために書加えられた記載であつて他事記載に該当せず斎藤利吉の有効投票というべきである。なお本件上郷村長選挙と同時に同村議会議員選挙が行われたこと及び右村議会議員選挙の候補者中に佐藤勇、佐藤章治のあつたことは争わないが、原告主張の別紙目録記載第二、第四、第五の投票は右村議会議員の候補者に対する投票と認めるべきではない。

(三)の事実中、原告主張の別紙目録記載第十九の投票は当時の村長小坂及び助役坂本の各氏名を併記した不真面目な投票と認められ単に原告の氏名の書替訂正とは認められないから他事記載の無効投票である。

以上により原告主張の無効投票とされた五十二票中には原告の有効投票と認むべきもの四票、斎藤利吉の有効投票と認むべきもの十四票があるから、結局原告の得票数は千百三十三票斎藤利吉の得票数は千百三十四票となり、その結果原告の当選を無効とし斎藤利吉を当選人とすべきものである。よつて本件裁決には違法の点がなく原告の本訴請求は失当であると述べた。(証拠省略)

三、理  由

原告主張の一の事実は当事者間に争がない。

同二の事実について審案するに、

(一)の事実は当事者間に争がない。

(二)  別紙目録記載第一乃至第六、第九、第十一、第十三、第十四の十票は、いずれも誤字脱字があつて記載やや不明確であるけれども、第一乃至第五、第十一、第十三の投票は「サイト」と、第六、第九の投票は「さいと」と各記載されたものと認めることができるから斎藤利吉の有効投票というべきである。右第十四の投票は左文字でやゝ不正確に「サイト」と記載されたものと認めることができるから同人の有効投票というべきである。なお原告は右第二、第四、第五の三票は上郷村議会議員候補者佐藤勇、佐藤章治に対する投票と認められる旨主張し、本件上郷村長選挙と同時に同村議会議員選挙が行われたこと及び右村議会議員選挙の候補者中に佐藤勇、佐藤章治があつたことはいずれも当事者間に争がないところであるが、本件選挙において選挙会の無効と判定した投票であることに争のない甲第二、四、五号証、第二十乃至第四十二号証によつても右三票が村議会議員候補者に対する投票と認めることはできない。

又別紙目録記載第七、第八、第十のうち第七の投票の左側の記載は「サイト」と、第十の投票の左側の記載は「さいと」と読むことができ、各その右側の記載は右のように訂正された書損じの部分と認められ他事を記載したものとは認められない。

又第八の投票は右側に「さいと」左側に「さ」と併記されてあることが認められるが右「さ」は斎藤の「さ」を併記したものと認められこれを他事を記載したものとは認められない。よつて右第七、第八、第十の投票はいずれも斎藤利吉の有効投票というべきである。

(三)  別紙目録記載第十九の投票は前掲甲第二十二号証と対照すると、「コウサカ」と記載された部分は原告の姓を記載したものと認められるが、その左側に「サカモト」と記載された部分は他事を記載したものと認められるから、右投票は無効というべきである。

以上によると、原告主張の無効投票五十二票中には原告の有効投票四票、斎藤利吉の有効投票十四票があるのであるから、これを前示開票の結果として公表された原告の有効投票数千百二十九票、斎藤利吉の有効投票数千百二十票にそれぞれ加えると、原告の得票数千百三十三票、斎藤利吉の得票数千百三十四票となり結局原告の得票数は斎藤利吉の得票数より一票少くなること計数上明である。

以上の次第であるから、原告の当選の効力に関する斎藤利吉からの異議申立を棄却した村選挙管理委員会の決定を取消し原告の当選を無効とした本件裁決には結局違法の点がない。

よつて本件裁決の違法を主張してその取消を求める原告の本訴請求は理由なしとして棄却すべきものである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 村木達夫 石井義彦)

(別紙省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!